日経広告賞受賞経歴のあるクリエイティブディレクター イムラシロウさんの働き方

執筆:大谷大

日経広告賞を受賞したこともあるクリエイティブディレクター、株式会社ニュートンデザイン代表イムラシロウさんの働き方についてインタビューしました。

大手企業に勤めていたイムラさんが独立に至る経理や、独立した頃の苦労話、これからデザイナーやクリエイターになりたい人へのメッセージを語ってくれてます。

イムラさんはインタビュアーの小林佳と大学時代の同級生という間柄であり、砕けた会話のインタビューとなりましたので、文章は少し硬目に編集してます。会話の空気感は動画やポッドキャストでお楽しみください。

※動画の内容を一部抜粋した上で再編集して掲載しています。完全版をご覧いただきたい方はYouTube、またはPodcastをご利用ください。

クリエイティブディレクターの仕事

──現在シロウさんががどういう仕事をしているのか聞かせてください。

メイン事業はウェブサイトの制作で、それにまつわる広告物、例えばポスターやチラシのデザイン。企画から立ち会うことも多くあります。

他にも空間を作ったりだとか、元々僕がSEをやっていたのでプログラミングに関わるようなシステム開発もやってます

大手企業を辞めて独立してからの話

──大学卒業後に就職した大手IT企業から独立したきっかけってなんだったんですか?

元々行きたかったのが広告系だったのですが、広告系企業は受からずにIT企業に就職しました。

広告系に行きたい思いは入社後にもあったんですけど、ITの世界に入って見ると「ここからの時代ITなしでは語れないぞ」と、広告にも常にITが絡んでくるっていうことをひしひしと感じてました。

広告とITが融合したものって何だろうっていうのを考えると、「ウェブ」っていうのがまさにそうじゃないかと。そう思ってウェブ系で独立したっていう感じですね。

──独立後、最初からいきなり仕事として収入を得るっていうのは大変だと思うんですけど、独立当初はどうでしたか?

独立して旗揚げする前に、作ったウェブサイトをコンテストに出したんですよ。そしたらそのコンテストに参加していた200サイトぐらいの中でグランプリを取ることができて。

そのグランプリを獲得したウェブサイトをサーフショップの店長さんとか社長さんに売り込みに行ったんですが、あっけなく断られて。

「高飛車な営業だよね」って言われましたね。

前職が大きな会社で自分も自信があったので、上からと言うか「これ絶対いいんで買ってください」ぐらいの感じで行ったらダメだったと。

──その話は破談で終わっちゃったんですか?

いや、これが僕の粘り強いところで。これだけいいものを作って売れなきゃ独立して絶対成功しないって思ったんです。

今でもすごい覚えてるんですけども、大雨の中車を走らせて、ずぶ濡れになりながらその店長がいるところにアポなしぐらいの勢いで伺い、もう一回話だけ聞いてくれってことでお店の前に立って待ってました。

やる気がみなぎってて何か起こるんじゃないかっていう風に感じてくれたらしくて、ちゃんと同じステージに立って「一緒に頑張りましょう」って話させてもらったら、「じゃあ買うよ」っていうことで言い値で買ってもらいました。

このサイトはかなり精魂込めて作った自信作でした。

サーフショップってコミュニティなのでそこに集まってくるサーファーがコミュニケーションできるような、小さいmixiみたいなのを作ったんですよ。

運の良さなのか何なのかわかんないですけど、それを見てたその地区の人たちが「私も」「僕も」っていうことで作ったものが営業してくれたんです。

一つの仕事でどんどん他の仕事にも発展的に広がっていった。それはいま創業15年目になるんですがずっと変わりません。

「言霊」があるように「ウェブ霊」と呼んでるんですが、作ったものが世の中に出ていくときにそれにエネルギーあればまたそこに人が集まってきて、作ったものが営業してくれるんです。

仕事の転機となった有名国立大学のコンペや大手との取引

──それが最初の仕事の転機だったと思うんですけど、その他で転機となる出来事ってありましたか?

コンペというのがあって。いろんな会社が参加して勝ったところが受注する仕組みなんですが、4年目か5年目ぐらいに有名国立大学のコンペがあったのでそれに参加しました。

本当に名だたる制作会社・広告代理店がいる中で、うちみたいな小さな会社がコンペの最後まで残って、大学の学長にも認められて受注に至ったことも転機の一つですね。

その後は大手企業さんから声が掛かったり、大手の代理店さんからいただく仕事が増えてきました。

みんなが名前を知ってるような大手の広告クリエイター集団の会社さんの下請けをやらせてもらってたことがあり、その時に鍛えられました。

映画のウェブサイトだったり広告物だったり、実は1ピクセル単位で調整が必要なんだなとか、テレビCMが15秒の中でどんだけこだわって作ってるかとか。

その細かさを深夜・朝方までやるんです。午前10時に公開しないといけないのに9時50分ぐらいまでかけてやっていて。

それを5年ぐらいやらしてもらう中でスキルも伸びて、更に大手さんから声が掛かるようになってきたっていう感じですね。

仕事のスケジュール感

──仕事のスケジュールというか、例えば1本の仕事をこなすのにどのぐらいの時間をかけてますか?

どれだけのボリュームのものを作るかにもよりますが、主に中小企業のウェブサイトを作ることが多いため、1ヶ月あれば作れるかなという感じですね。

ただ、その中にシステムが入るだとか、アプリが入るだとかなってくると、また時間が必要になってくるので、案件によってまちまちです。

──時間の使い方って何か意識して使ったりとかってありますか?

僕の場合は集中したら24時間でもずっとデスクにいるような人間なので、手がしびれてきたらやめるとか、朝から何も食べてなかったみたいなことが多いです。

で、一気にやって一気に休む、みたいな感じですね。

だから朝から仕事をしている時もあれば、昼まで寝てることもあるし。

食事も何時に食べるとか決まってません。

ただ、ちょっと歳食ってきたんで、健康に気をつけて規則正しく生きようとは思ってますね。

クリエイティブディレクター・ウェブデザイナーに向いている人

──シロウさんが思う、この仕事が向いている人・向いてない人ってどんな人ですか?

高飛車じゃない人。

昔の僕みたいなプライドだけが高い人間だとやっぱりダメなんだろうなと思います。

ただそれを変えられれば、その瞬間お客さんと立ち会っていればお客さんが何かちょっとこう「俺きっかけで変わった?」みたいな感じもあるだろうし、喜びをお客さんと一緒に共有するきっかけにもなるのかなと思うんでそこは切り替えられればいいと思います。

──それぐらいこの仕事においてコミュニケーションっていうのは大事っていうことですね

コミュニケーションしかない感じですね。デザインもコミュニケーションなので。

先方が「こういうものを作りたい」とおっしゃったら「じゃあ、これがいいんじゃないですか?」というコミュニケーションの結果、お客さんが欲しいものを出す仕事です。

これがアーティストとデザイナーの違いかなって思いますね。

シロウさんの仕事のポリシー

──シロウさんが仕事において一番大切にしていることってなんですか?

最後までやり抜くことですかね。これは僕の絶対的なポリシーで。

一回だけ頓挫して迷惑かけてしまったことがあり、本当にそれが悔しくて。

IT業界とかプログラマーとか現場にいる人にはすごくわかることなんだけど、お客さんの要求がどんどん増えてくると途中でやめたくなるときがあります。

お客さんの要望によっては根底から変えないといけないことがあって、「ここまでいったらもうここには戻れない」っていうところをお客さんとコミュニケーションしていかないと、そのまま受けてくると現場が疲弊してしまうため途中で頓挫しがちなんです。

なので、真ん中にいる僕のような役割の人間がしっかりして最後までやり抜ける環境を作り、現場の人間としては言われたことは徹底的にやるのが大事です。

途中で辞めるっていうのはうちでは無しかな。それくらい作ってこそクリエイティブだと思うんで。

──相手側からのニーズとニュートンデザインとしての個性のバランスってどのようにとってますか?

自分が格好いいとを思うものを売ったり値段付けたりすることって、まるでそれは絵描きの人などのアーティストがやることなんです。僕、最初それに気付かなくて。

でも僕はアーティストではないんだと。自分はやっぱりデザイナーであり、お客さんのビジネスを成功に導く一翼を担うためのビジネスツールを作っているので、そこにアーティスト気質ってほとんどの場合不要で。

目的を達成するための構図っていうのがあって、「ここに絶対こうあるべきだよね」っていう優先付けだったりカテゴライズだったり。ビジネスツールを作るとなるとそういうところが多分うまくできると思うんですよ。

何かの番組で見たんだけど「個性は消しても消しても残る」と。

うちだったら、色の使い方が派手だったり、なるべくインパクトがありかつワクワクするようなっていうところを意識してやってるんですが、そういうのがいらないよっていうお客さんもいるんです。

でもお客さんに響くようにまずやりたいようにデザインして、そこから削いで削いでお客さんが言うように形を変えていく過程で残ったものが個性だと思ってます。

NEWTON DESIGNがやっていること

──NEWTON DESIGNでは様々な取り組みをされてますが、最近沖縄進出されたんですね?

僕は転勤族で沖縄に2年だけ住んでたんですよ。

その影響もありいつか仕事で沖縄に行けたらいいなと思っていたところ、いまなら助成金がおりやすいっていう話もあって、行くなら今がチャンスかなって。

ちょうどその時にアサインできるメンバーがいたので、沖縄にも事業所を構えました。

──講師業もやられてましたっけ?

代理店さんの紹介で学校の講師をやってくれないかという話があり、その当時34歳ぐらいになってたので、自分の後に同じようにやってくれる人間を育てるのもすごく有意義だな、大義あるなと思って始めました。

そこで教えた方と今も繋がったりもしてますし、みんな凄い優秀になって、Amazonに入った人間もいますし、うちでインターンやってた人間もいます。

遺伝子が広がっていく感じがいいですよね。

第68回 日経広告賞 AR広告特別賞

──第68回日経広告賞AR広告特別賞を獲得した話を聞かせてください。

スイスの時計ブランド「CORUM」って、僕たちの親の世代だとみんな知ってるぐらいの憧れのブランドなんです。

その時計ブランドのCM動画アニメーションを担当しました。

ウェブだったり、品川のデジタルサイネージをジャックしたり、結構大掛かりなプロモーションが走ってその一翼を担わせてもらいました。

独立にあたって持ってた夢っていうのが何個かあって、そのうちの一つが日経広告賞でした。

会社としてクリエイティブで独立したからには会社が小さかろうが何だろうが広告賞を取ってやると。日経広告賞を取れるぐらいの第一線のクリエイティブカンパニーにしたいなって思ってたので、その夢が叶ったんですよね。

──クリエイティブなことってお金になりますか?

独立して一人でやるんだったら、ものの価値がちゃんと分かっていて、それをお客さんに納得してもらえるコミュニケーション能力があるかないかは重要です。

100万円のものを10万円で売ったら駄目なんですよ。そしたら独立しない方がいいですね。

100万円のものを100万円で売る、または少し上乗せして利益を取るとか、それをやってこそビジネスだと思うんで。

──それって最初から意識できてました?

そこは意識してました。

いいものを作る。自信を持って値段をつける。安く売らない。売れなかったら自分の営業力がない。

この辺りはかなりシビアにやってました。

本当に最低限を切らないように、かかった工数分はなるべくお客様にも払ってもらえるように交渉しますし、工数がかかりそうだったら早めに工数がオーバーしますよと伝えて、せめてその間に着地するとか。そんな交渉は常にやってます。

ITを使った社会貢献をしたくて生まれた「ハグミィ」

──今後やっていきたいことやさらに生まれた夢ってありますか?

元々がウェブの制作会社・広告のクリエイティブ会社として15年やってきた中で、3年前からITを使って何か社会貢献できないかなということを真剣に考えてました。

「ものづくり補助金」という経産省が出している補助金制度を活用して、ITを使って保護犬・保護猫と飼い主をマッチングさせるサイト「ハグミィ」というサイトを立ち上げたところです。

動物愛護って結構厳しいんですよ。誰でも彼でも例えば里親さん見つけて譲ればいいってもんじゃなくて、それを動物実験とかに使う人たちもいるんです。

動物愛護法っていうのがあって、例えば譲渡するときにワクチン接種しないといけないとか去勢しないといけないだとか一回譲る前に飼ってみるだとか、やらないといけないことがたくさんあるんですが、清く正しくルールに則ってマッチングさせるサイトが「ハグミィ」なんです。

世の中にある問題を、少なくてもITのプロとしてITを使って問題解決したいという思いが強いです。

ハグミィから派生して「ペットタグ」っていう迷子札も作ってます。

クラウド型の発見システムを作って迷子になった犬や猫を見つけられるようにしたアイテムで、特許も取って今後展開しようと思ってます。

イムラシロウさんが伝えたいこと

──最後、イムラシロウさんが若いみなさんに伝えたいことがあればお願いします。

人それぞれ何がいいかって違うと思うんで何とも言えないですけど、はたらくchを見てくれてる若い人、「こんな仕事したいな、あんな仕事したいな」「どんな仕事していいのか分かんないな」って思う人たちに向けて言えることはあるかなというところでお伝えします。

正直学生の頃から本当にやりたいことがすごく絞られるなんてほぼないと思うんですよ。

やってみて合わなかったっていうのもあるし、やってみたら意外とすごく良かったっていうこともあるし。

ステータスとか周りからの世間体とか会社の知名度などで進路を決めるのではなくて、本当にやりたいことっていうのを探して欲しいです。

あと、こんな人になりたいなっていう人を見つけたらすごい強いと思ってて。

残念ながら僕は大企業にいた時は、先輩ですごい優秀な方々がいっぱいいたんだけど、こうなりたいって思える先輩が見つからなかったんです。

なるべくそういう先輩に会って見つけられたら最高だなって思います。

──いまやっている仕事の魅力ってどういうところにあると思いますか?

何千人と動かしてドーンというデカい仕事は大企業さんがやることだと思いますが、お客さんは遠かったり反応レスポンスがなかったりというデメリットもあります。

独立して仕事すると、どうしても自分の目の届く範囲の仕事になるため全部自分にレスポンスが向かってくるんで、やりがいがすごくあります。

僕の仕事はモノを作る仕事なので、作ったものがバイネームで世の中に出ていくし、あわよくば賞とかも取れちゃう。

日経広告賞で自分の名前が並ぶことは僕の夢だったんで、そういうやりがいや魅力はありますよね。

関連リンク

ハグミィ
https://hugme.jp/

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