株式会社みんなのごはん代表岩溪寛司さんにインタビューしました。
元バンドマンだった岩溪寛司さんがヴィーガンと出会い、ヴィーガンを仕事にするまで、そしてこれからの仕事の仕方について語っていただいてます。
今回インタビューを担当した小林佳とはバンド活動をしていた頃のレーベルメイトということもあり、深い話を伺うことができました。
目次
ヴィーガンってなんですか?
──ヴィーガンとベジタリアンの違いについて教えてください。
ベジタリアンってみなさん聞いたことあると思うんですけど、ベジタリアンっていうのとヴィーガンっていうのが世の中にざっくり二つあるんです。
ベジタリアンの中には「魚食べますベジタリアン」がいたり「乳製品食べますベジタリアン」がいて、ヴィーガンの人からするとそれだけ言われても情報が足らないんです。
ただ、ヴィーガンは1個しかないんで。動物性の食品を一切食べないのがヴィーガンです。
──ヴィーガンはベジタリアンの中でもストイックな印象があります。
スタイルとしてはストイックですけど、食品の開発とかメニューを作ったりする現場のことでいうと、例えばレストランのベジタリアン対応をしようとすると組み合わせがほぼ無限にあるから難しいですよね。
だけどヴィーガンメニューを1個用意しておけば、ヴィーガンの傘を用意すればみんな入るんで、ライフスタイルとしてはストイックなんだけど考え方としてはヴィーガンの方がシンプルで分かりやすいんです。
食品を作ったりするときはヴィーガンメニューを1個作っちゃえばみんな網羅できるんです。
ヴィーガン活動のきっかけ
──ヴィーガンの活動を始めたきっかけを教えてください。
ヴィーガンを広める活動を始めたきっかけは、やってる人がいなかったっていうのがあって。
2010年前後は、まだヴィーガン・ベジタリアン界も露出の少ない時代だったんですよ。
バンドメンバー4人全員がヴィーガンだったこともあり、何かヴィーガンの活動をしようと思った時に、最初はヴィーガンの活動してる人たちのところに俺らも入ろうみたいな感覚があったんです。
ただ、「ヴィーガンを広めていこう」みたいな人があまりいなかったんですよ。
だから自分たちで何か始めようと考えるようになり、「THINK AGAIN」というイベントを立ち上げました。
──当時オフ会もよくやってましたよね。
僕よりも他のバンドメンバーが主導でやってたんですが、ほぼ毎月食事会やってました。
少ないときは4人くらいで多いときは20人くらい。お店を貸し切ったりしてやってたんですが、このTHINK AGAINの食事会によってヴィーガンコミュニティが出来上がっていったんです。
その食事会をきっかけに、バンドのメンバーだけじゃなくていろんな人が入ってこれるようにしたいなと思ったので、「THINK AGAIN」をただのイベントではなくNPO法人として設立しました。
NPO法人って会員制なんで、いろんな人が入ってこれるんですよ。そしてお金の出入りはその法人でやってました。
株式会社みんなのごはん創立当初
──株式会社みんなのごはんは2014年設立とのことですが、NPO法人から株式会社に至る経緯を教えてください。
2012年にバンド活動を終了したところで、NPO法人THINK AGAINを僕は僕1人で運営することになり、いろいろやっていく中で日本航空(JAL)の機内食にメニューが採用されることになりました。
営業に行った時には「NPO法人 THINK AGAINです!」って名刺持って行ってたんですが、NPO法人って非営利団体なんですよ。ビジネスをゴリゴリやっていくってちょっとやりにくいなと思って。
なのでこれを機にNPO法人でやってた事業を事業譲渡する形で株式会社みんなのごはんを作って、JALとはその名義で契約しました。
その当時は企画・提案をする人がいなかったため、JALに面白がってもらえたんです。当時はがむしゃらだったんで明確に狙ってた訳ではありませんが、風穴開けるのはやっぱりちょっと特異性が必要でしょうね。
──他の企業にも話を持って行ってたんですか?
持って行ってました。百戦錬磨でもなくて、門前払いの方が多かったです。
電話をかけるリストを作って上から順に電話して、という営業方法でしたが、効率悪かったです。ほぼ100%断られるので。
もう少し効率良い営業方法はないかと思い、大きな企業さん名指しで「ここの人と接点持ちたいんですけど」って言って、いろんな人に会いに行くみたいな作戦に変えたんです。
そしたらいろんなところから「岩溪君、あの企業と接点持ちたいって言ってたよね」って紹介してもらえるようになっていきました。
大きいところとしかやらないと決めたことが良かったかもしれないです。
──ヴィーガンの仕事がお金になり始めたのはいつ頃ですか?
NPO法人 THINK AGAINとしてJALの機内食メニューを作り始めた頃は、正直それだけじゃ食っていけなかったんですよ。
そこからいろいろな仕事が増えていってだんだん食えるようになっていきました。
ヴィーガンを仕事にすること
──ヴィーガンの仕事ってヴィーガンじゃないとできないんですか?
僕が創業時はヴィーガンだったからその流れで来てるんですが、僕はいまヴィーガンじゃなくて、社員でもヴィーガンの人はいないんじゃないかな?
「ヴィーガンじゃないんですね、じゃあダメです」みたいなこともまったくなくて、もちろんヴィーガンのことまったくわかりませんという人は一緒に仕事できないですけど。
ヴィーガン教えてる人でもヴィーガンじゃない人って、料理業界でも結構いるんですよ。
──寛司さんは「ヴィーガンプロデューサー」ですが、株式会社みんなのごはんには他にどんな役割の方がいらっしゃるんですか?
いま一緒にやってるのは大体7人ぐらいで、役割がみんなほぼかぶっておらず、一人一役みたいな感じでやってます。
料理する人が2人いて、ヴィーガン専門の料理人とヴィーガンじゃない料理もできますっていう人。
他にはマネジメントするような人とか戦略を考えるような人とか。
いま営業の人はいなくて僕がやってるんですが、営業ってやっぱり人手いた方がいいじゃないですか。なのでこれからは営業部隊を増やしたいですね。
株式会社みんなのごはんの今後の展望
──会社の目標でも個人の目標でも、これからこういうことやってみたいなっていうことはありますか?
海外に拠点を持ちたいんです。日本ブランドのヴィーガンビジネスをアジアに持っていきたいんですよ。
アジアにあまりベジタリアンのイメージがないかもしれませんが、例えばタイや台湾は仏教国なんです。仏教の人って実はベジタリアンが多いんですよ。
またアジアに住んでいる富裕層の人って日本のヘルシーな食べ物とか、最先端なものとか好きなんですよね。
世界中からアジアに駐在員に来てる人たちもいっぱいいて、その人たちが富裕層エリアに住んでいたりして、そういうところに意外と市場があるっていうのがわかってきたんですよ。シンガポールとかそんなイメージでしょ?
アジアはまだこれからじゃないですか。アメリカやヨーロッパはヴィーガン・ベジタリアンって飽和してるんで、これからのところに行くのが面白いかなと思ってます。
ヴィーガンをもっとポピュラーなものに
──SDGsを意識したりもしてますか?
ここ2,3年でSDGsというキーワードをよく聞くようになったことが追い風になってますよ。
先ほど話した「THINK AGAIN」というイベントにグッドネーバーズ・ジャパンとかいろんなNGOさんが出てくれてましたが、いま考えると「THINK AGAIN」というイベントがSDGsだったんですよ。
SDGsっていう便利な言葉ができたなと思って、いまそこに乗っかるような感じで。
企業さんとかがうちの取り組みに関心を持ってくれるのもSDGsのおかげでやりやすくなっているんですよ。
──現在ではヴィーガンはまだマイノリティなものという印象がありますが、ヴィーガンをポピュラリティにしていこうという意識はしてますか?
意識してますよ。この仕事を始めるようになって、ヴィーガンはまだまだ一部の人のものであって、もっとポピュラリティになっていかないといけないと思ってるんですよね。
今までの歴史を見るとそういう過程を経てきたものってたくさんあって、最初は一部の人のものだったものがみんなのものになっていくっていうのはあると思うんですね。
バンド時代、ライブの後とか一緒にご飯食べに行ったじゃないですか。気づいてなかったかもしれないけど、みんなと居酒屋行く前に僕らはインドカレー屋でベジタリアンカレーを食ってから行ってたんです。
居酒屋いったら食うものがないから。居酒屋にはみんなのごはんがないんですよ。だから僕らはみんなのごはんを作りたいんです。
居酒屋に行ってベジタリアンメニューがあれば僕らも一緒にごはんが食べられた。当時できなかったんですよね。
ヴィーガンの人でも一緒に食卓を囲める社会をつくっていかないといけないなと思ってて。
また、ベジタリアンメニューがあったときに、ベジタリアン以外の人にとっても一つのチョイスとして食べてもらえるようにならないといけないんです。これも横並びで一つの選択肢だよって。
それがポピュラリティーという意味でいうとおいしくないとダメじゃないですか。
だからヴィーガンの人のために作ってないんです。ヴィーガンじゃない人がおいしいって言ってくれたら、ヴィーガンの人にとってもおいしいものになってるはずなので。
ヴィーガン業界に向いている人は?
──ヴィーガン業界で仕事をしてみたいと思う人も今後増えてくると思いますが、どんな人がこの業界に向いてると思いますか?
その人がヴィーガンであってもそうじゃなくても良いのですが、「ヴィーガンを広めていきたいというマインドを持ってる人」だと思います。
「ビジネスしたいわけじゃないんです」っていう方もいるんですよ。資本主義なんで儲かってるとか事業が成り立ってるってことは、その分投票をもらってるっていうことじゃないですか。僕らがこの業界でやるのであればビジネスにしていかないといけないんです。
ビジネスにせずに啓蒙活動をしていくんだとすると、それこそ広まらないと思いますよ。
なので、ビジネスマインドを持ってる人はヴィーガン業界で仕事をしてて面白いんじゃないかなと思います。
ヴィーガンプロデューサーの仕事の満足度
──最後に、ヴィーガンプロデューサーとして仕事をしていて、いまの仕事の満足度がどれくらいだと感じているか教えてください。
満足してるかしてないかでいうと満足してますよね。
ただし、現状に満足してるかというと全く満足はしてないっていうのはあります。
職種自体に、やってること自体に満足感はありますよ。誰もやってないことだし、イノベーティブだから。
本当に誰もやってないことやってるなっていう感覚はあるんですよ。
答えがないししんどいこともあるけど、代わりがきかないじゃないですか。僕ら以外、これをやれる人はいまいないから。
音楽やってんのと似てるんですよ。自分のバンドみたいなもんです。
みんなのごはんというバンドをやってて、僕らでしか出せない音を出してる、みたいな感覚がいまもあるから、これがちゃんとポピュラリティになっていけば面白いだろうなと思ってやってます。